うちの父上のタバコ史#2
「ガンになろうがタバコは吸い続けてやるぞお!」 これはウチの父上の口癖であり、そして彼の確かで力強い信念。彼の生き様といっても過言ではない確かで力強い信念なんだ。 前回からの続き。そんな父上に訪れた転機とは。 健康診断で引っ...
前回からの続き。タバコが生きがいだった父上に、いよいよ人生初の手術日が決まったところ。
手術前
最悪の病状である「ガン」を考えていた父上にとって、肺気腫というのは不幸中の幸い。ほっと胸をなでおろす結果となった。
それに対し家族の意見は、
「いっそガンだったらよかったのにねえ。」
と割に辛辣。いつもの父上なら半ギレ気味のハードボイルドタバコ論が飛び出すところなんだけど、
「あぁ、そうかもな…」
と、力と抑揚のない生返事が返ってきた。今までにないリアクションに、やや困惑する家族の面々。その一件があったせいか、以降、タバコの話題がタブーといわんやの扱い。
なんともいえない、どんよりとした空気が漂っていた。
手術後
で、肝心の手術は、つつがなく終了。
お見舞いの際、父上の上体に繋がれた管が物々しいサイバー感を演出。くわえて、術後の影響か顔つきもやつれて見える。
そんな具合なもんだから、なんというか声ひとつかけるにしても、今までにない「ためらい」のようなものが生まれた。
「どうなん?」
「あぁ」
一事が万事、こんな調子の会話が続いた。なんというか、非常にフワフワとした形容しがたい感覚。現実感がないような。
帰宅後
その後、リハビリを終えた父上は、家族の予想を裏切って唐突に禁煙をはじめ、そして成功した。
手術前の確かで力強い「タバコやめません」という信念。
しかし、自身に繋がれた物々しい管を見て生きた心地がしなかったのだろうか。禁煙後は1本たりとも火をつけることはなかった。